近年のバルサンには、火を使わず、目に見える煙もほとんど出ない「水タイプ」や「霧タイプ」が増えており、その手軽さから「これなら家にいても大丈夫なのではないか」と考える人が増えています。しかし、たとえ視覚的な煙がなくても、室内には強力な殺虫成分が充填されているという事実は変わりません。むしろ、煙が見えないことによる「偽の安心感」こそが、最も警戒すべき落とし穴となります。煙タイプのバルサンであれば、白い煙が見えることで本能的に危険を察知し、その場を離れることができますが、霧タイプは透明な微粒子が空間を埋め尽くすため、自分がどれだけの薬剤を吸い込んでいるのかを自覚することが困難です。霧タイプのバルサンに使用されている成分は、煙タイプと同様、あるいはそれ以上に浸透力が強く設定されている場合もあります。これらは、床を這うゴキブリだけでなく、空中に浮遊するダニやノミを確実に仕留めるために、空気中に長く留まるよう微調整されているからです。もし、使用中の部屋に留まれば、目に見えない殺虫成分の海に身を浸しているのと同じ状態になります。さらに、霧タイプの製品はボタン一つで噴射が開始され、数分間で全量が放出されますが、この急速な噴射によって部屋の酸素濃度が相対的に低下したり、噴射ガスによる引火のリスクが生じたりすることもあります。家にいても大丈夫だと誤解して、別の部屋で作業を続けている最中に、エアコンの配管やコンセントの隙間を伝って薬剤が忍び寄り、気づいた時には逃げ場を失うような濃度の成分に包まれていたという事例も報告されています。また、皮膚に付着した微粒子は、石鹸で洗い流さない限り、そのまま皮膚呼吸を通じて体内に吸収され続け、後で痒みや湿疹の原因になることもあります。メーカーが「煙が出ない」と謳うのは、家具や壁を汚しにくく、火災報知器に反応しにくいという利便性を強調しているだけであり、決して「人間との共存が可能である」という意味ではありません。バルサンは、その種類を問わず、空間からすべての人間とペットを排除した状態で行うことが、製品の設計思想そのものなのです。家に居座ることは、薬剤の効果を阻害するだけでなく、自らの身体を実験台にするようなものです。どのような最新技術が投入された製品であっても、殺虫という目的を果たすための「毒性」は維持されています。スマートに害虫を駆除するためには、この基本原則を忘れず、正しい距離感を保って使用することが、現代の賢明な住まい手に求められる最低限のマナーと自衛策なのです。