「地面の穴からスズメバチが出入りしている」。我々、害虫駆除の専門業者にとって、これほど緊張感を伴う依頼はそう多くありません。土の中に作られたスズメバチの巣、いわゆる「土蜂」の駆除は、屋根裏や軒下に作られた巣の駆除とは全く異なる、特殊な知識と技術、そして何よりも高度な危険管理能力が求められる現場です。まず、我々が現場に到着して最初に行うのは、巣の状況を正確に把握するための、慎重な調査です。巣穴の大きさ、出入りする蜂の数と種類、活動の激しさ、そして巣の周辺の地形や障害物の有無などを、安全な距離から詳細に観察します。これにより、巣の規模や地下での広がりを予測し、最も安全で効果的な駆除計画を立案するのです。土の中の巣が厄介なのは、巣の全体像が外から全く見えない点にあります。地下では、我々の想像以上に巣盤が何層にも重なり、巨大なコロニーが形成されていることが珍しくありません。駆除作業は、専用の厚い防護服を完全に着用し、万全の安全体制で行われます。基本的な手法は、まず巣穴の入り口から、高圧の動力噴霧器を用いて、強力な殺虫剤を巣の内部へと大量に注入することです。薬剤が巣の隅々まで行き渡り、内部の蜂を確実に無力化させるためには、相当量の薬剤と時間が必要です。注入中に、巣穴から怒り狂った多数の蜂が飛び出してきますが、我々は冷静にそれらを駆除しつつ、作業を続けます。薬剤が十分に浸透したと判断した後、いよいよ巣の掘り出し作業にかかります。スコップやクワを使って、巣穴の周辺の土を慎重に掘り進めていくと、やがてマーブル模様の巨大な巣盤が姿を現します。その大きさは、時に直径五十センチを超えることもあります。巣を完全に撤去し、残った働き蜂や女王蜂がいないことを確認して、ようやく作業は完了です。気になる費用相場ですが、土の中のスズメバチの巣の駆除は、その危険性と作業の難易度から、軒下の巣などに比べて高額になる傾向があります。巣の大きさや場所にもよりますが、一般的には四万円から十万円程度が目安となることが多いです。しかし、この費用は、ご家族やご近所の方々の安全を確保するための、必要不可欠な投資であると、我々は考えています。