それは、ある土曜の朝のことでした。コーヒーを淹れようと砂糖の壺に手を伸ばした私は、思わず息をのみました。白い砂糖の山に、無数の黒い点がうごめいていたのです。それは、我が家のキッチンがアリに占拠された、悪夢の始まりの合図でした。私はパニックになり、すぐさま殺虫スプレーを手に取り、砂糖壺めがけて噴射しました。しかし、それは気休めにしかなりませんでした。翌日には、今度は床にこぼれたパンくずに、新たなアリの行列ができていたのです。ここから、私とアリとの長い攻防戦が始まりました。私はまず、インターネットで対策を調べ、アリ駆除の基本は「巣ごと退治」にあることを学びました。すぐさまドラッグストアで顆粒タイプの毒餌(ベイト剤)を購入し、アリの行列の近くに設置しました。しかし、賢いアリたちは、その毒餌を警戒してか、見向きもしてくれません。私は諦めず、今度はジェルタイプの毒餌を試してみました。アリの通り道である壁の隅に、線を引くように塗布しました。すると、数匹のアリが興味を示し始めましたが、行列をなして群がるまでには至りませんでした。私は、駆除だけではダメなのだと悟りました。敵の侵入経路を断たなければ、この戦いは終わらない。私は執念深く、アリの行列を追い続けました。そしてついに、キッチンの窓枠の、ほんの数ミリのコーキングの切れ目が、彼らの侵入口であることを突き止めたのです。私はすぐさまホームセンターで補修用のパテを買い、その隙間を徹底的に埋めました。物理的に入口を塞いだのです。すると、不思議なことに、あれほど毒餌を警戒していたアリたちが、まるで最後の食料を求めるかのように、ジェル状の毒餌に群がり始めたのです。その光景は不気味でしたが、私は勝利を確信しました。数日後、あれほど毎日見かけたアリの姿が、嘘のようにキッチンから完全に消え去ったのです。この戦いを通じて、私は学びました。アリとの戦いは、力任せではなく、観察力と根気、そして正しい知識が何よりの武器になるのだと。